何度も引用している有史以前の出来事が起きる前には、人々の間に「勝ち負け」という概念は存在しなかった。「ウマにまたがり棍棒を腰に吊るした小男」と「ほかのウマに乗った連中」との間で争いが始まったことにより、初めて「勝ち負け」という概念が生まれた。この争いは当初は、権力者たちの縄張り争いだったのだが、権力者たちは極めて巧みな手口で、羊飼いたちを戦いの当事者にしてしまった。「戦いに負ければ、羊を飼うことができるこの土地が失われるのだ」と。こうして争いの目的はすり替えられ、人々は「勝ち負け」を自分たちの問題だと思い込むようになった。このすりかえをさらに巧妙化したのは「競技」という概念の発明であった。