福岡市中央区赤坂にある「珈琲美美」の店主・森光宗男さんは、1972年から5年間「吉祥寺もか」で標交紀さんに師事しました。修行後、1977年に福岡市中央区今泉に「珈琲美美」を開店し、自家焙煎と「滴一滴」のネルドリップにずっとこだわり続けてきました。そして、2009年5月に現在の場所に移転しました。
「吉祥寺もか」の流れをくむ「珈琲美美」にぜひ一度行きたいと、かねてから思っていたのですが、やはり福岡は遠い。でも、やっと念願が叶って、台風12号が接近中の9月3日に、「珈琲美美」に行くことができました。北側には福岡城跡、道を挟んで南側には護国神社があり、2階の喫茶スペースの窓一面に美しい緑が広がる、そんな贅沢なロケーションのお店でした。
店の入り口正面に立つと、入り口に向かって左側の大理石っぱい壁の感じが「吉祥寺もか」に似ていると思いました。店の1階は珈琲豆の販売コーナーと焙煎室になっています。珈琲豆のショーケースは、かつて「吉祥寺もか」で見たものとよく似ているように感じました。標さんが亡くなった後、「吉祥寺もか」の焙煎機やディティングのミルを受け継いだと聞いているので、もしかすると、このショーケースもそうなのかもしれません。「吉祥寺もか」から受け継いだ焙煎機は標さんが師と仰いだ襟立博保さんが考案した「赤外線付き焙煎機」だったのですが、この焙煎機は今はもう無く、代わりにフジローヤルの5キロ釜が置かれていました。なお、「赤外線付焙煎機」については、こちらの記事をご覧ください。
さて、2階の喫茶スペースに上がると、5席あるカウンター席の向こうに森光宗男さんがいらっしゃいました。テーブル席ではなく、迷わずカウンター席に座りましたが、少し遠慮して、森光さんからは一番遠い左端の席にしました。注文する珈琲はあらかじめ決めていて、まずはデミタスの「イブラヒム・モカ」を注文しました。個人的には、珈琲の醍醐味は濃厚なデミタスにあると思っています。そして、デミタスゆえに、まさに森光さんの「滴一滴」の抽出が見られると思ったからです。
注文を受けた森光さんは、まず豆を平らなお皿の上に広げました。欠点豆が混入していないか、最後の確認をしているのです。そして、その豆を投入したのはディティングのミルかと思いきや、意外にもわが家にあるのと同じ「みるっこDX」でした。Webサイトにアップされている写真を見ると、この場所には銀色のディッティングが置かれていたはずなのですが、もしかすると老朽化して使えなくなったのかしれません。
抽出が始まりました。それはまるで厳かな儀式のようで、この世界のすべての時間が止まってしまったかのような錯覚に陥りました。膨らんでくる粉とポットの注ぎ口が接するくらいに、粉の間近からお湯を置くようにそっと落とします。まさに「滴一滴」の抽出でした。
デミタスのイブラヒム・モカをいただくと、深煎り特有の苦味の後に上品な甘みが感じられますが、驚くべきは、その後味の収束の仕方です。すっと消えてなくなって後に何も残らない。珈琲の神髄に触れたような気がしました。
お客さん全員分の抽出が終わった森光さんが椅子に座ったので、「吉祥寺もか」に行ったことがあることや、桜井美佐子さんの「ダフニ」にも行っていることを話すと、気さくにお話をしてくれました。
2杯目はバニーマタル・モカ。「バニー」は子孫、「マタル」は雨を意味していて、イエメンの降水量の多い山岳地帯で栽培されているとても希少なモカです。
こうして至福の時を過ごした後、1階の珈琲豆の販売コーナーで買い物をして、「珈琲美美」を後にしました。
(その2に続く)
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