NHKの連続テレビ小説「虎に翼」を観ていると、戦前には女性がひどい差別を受けていたことがわかります。
男女不平等は、いつ頃に、どのように始まったのでしょうか? 以前アップした『戦争に至る進化の道』のなかから、男女不平等に関する部分をまとめ直してみました。
人類とチンパンジーが共通の祖先から枝分かれしてそれぞれ独自の進化の道を歩み始めたのが約700万年前で、現生人類のホモ・サピエンスが登場したのが約20万年前と言われています(学説によって年代にかなり幅がありますが)。その進化の歴史のほとんどの期間、われわれは狩猟採取生活(✳︎)をしてきました。農耕と牧畜が始まったのは約1万年前なので、人類の歴史全体からみると、ごく最近のことです。そして、長い狩猟採集生活の期間を通して、男女は比較的平等だったと考えられています。
男女不平等が生じる背景には体格差があります。これは、多くの哺乳類に共通してみられる特徴で、雄の間で繰り広げられる配偶者獲得の闘いに勝つために雄の体格は大きくなります。そのため、配偶者獲得競争が激しい種ほど、雄雌の体格差が大きくなる傾向があります。たとえば、ゴリラは群れの中の最強の雄だけが子孫を残すことができますが、それによって雄の体重は雌の2倍にもなり、体格だけでなく、武器になる犬歯も大きく鋭く進化しました。なぜ、配偶者獲得競争をするのは雄だけなのでしょうか?それは、潜在的繁殖速度を勘案した実効性比に偏りがあって、繁殖に参加可能な個体数は雄の方が多いからです(なかにはそうでない種もあります)。
人間も他の哺乳類と同様に、配偶者獲得競争の結果、男性の体格は女性よりも大きくなりましたが、狩猟採集社会では、それによって役割が完全に分かれることはなく、女性も狩りに参加していたし、男性も採集に参加していたようです。また、初期猿人→猿人→原人と進化するにつれて、犬歯が退化し、体格差も縮小しているので、配偶者獲得競争の激しさが和らいてきたと考えられます。
このように比較的男女平等だった狩猟採集生活が何百万年も続いた後、約1万年前に農耕と牧畜が始まりました。農耕や牧畜の作業は、狩猟採集に比べてかなり重労働です。それをきっかけに、体格と体力に勝る男性が、土地や家畜や農器具などの資源を独占するようになり、男性優位の家父長制社会が始まったと考えられています。
農耕や牧畜を行う社会では役割分担が始まり、それによって格差が生じ、社会が階層化しました。これが家父長制や一夫多妻制と結びつくと、運よく高い地位につくことができた男性は多くの配偶者を得て、次世代に多くの遺伝子を残せるようになりました。さらに、高い地位についた男性は、自分と同じ遺伝子を持つ子供や血縁者にその特権を引き継ごうとするので、高い地位が代々世襲されるようになりました。その頂点が王です。
以上が、男女不平等の起源の物語ですが、これは戦争が繰り返される原因とも密接に関係しています。そう考えると、農耕と牧畜が始まった約1万年前に、もっと平等な道を選べなかったのだろうかと思いますが、歴史を遡ることはできません。でも、人類の長い歴史からするとごく最近のことなので、これから軌道修正しても遅くはないと思います。今の私たちは、1万年前には想像もできなかったような知識と技術を持っているのですから。
(✳︎)まったくの余談ですが、ヒトの狩猟能力はそれほど高くなくて、他の有能な肉食獣か仕留めた獲物の食べ残しを、自分たちの住処まで持ち帰っていたほうが多かったという説もあります。食べ物を手に持って長距離歩くことで、直立二足歩行が高度に進化したという訳です。
ヒトの進化のことがよくわかる教科書的な一冊としては『進化と人間行動 第2版』長谷川寿一・長谷川眞理子・大槻久著がお勧めです。
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