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Consideration

【改訂版】「戦争」に至る進化の道

この記事この記事の続編です。

リチャード・ランガムとデイル・ピータソンの『男の凶暴性はどこからきたか』を読んで得られたことを追加しました。


「高みから道徳を説く神(=一神教の神)」が現れたのは、ヒトの長い進化の歴史のなかでごく最近で、枢軸時代と呼ばれる紀元前千年紀のことです。この時期には社会や政治が複雑化し、都市の人口は100万人規模になっていました。帝国と呼ばれるような強大な国家同士が激しい戦争を繰り広げるようになったのもこの頃からです。それでは「ヒトはなぜこんなにも戦争をするようになったのか?」、その理由をヒトの進化に基づいて説明することが、今書き始めている提言の前提となる重要なテーマの一つです。以下に、これまでの読書で分かった事柄を箇条書きにしてみます。

「戦争」に至る進化の道(年代の古い順)

  1. 多くの哺乳類において、配偶者獲得競争に勝つために、オスの体格が大きくなり、犬歯が鋭くなり、攻撃的な性格が強まった(潜在的繁殖速度を勘案した実効性比がオスに偏っているのでメスは配偶者獲得の闘いをしない)
  2. ほとんどの類人猿に共通する特徴として、メスは配偶者のオスに忠誠を尽くす一方、オスは他のオスの暴力からメスや子供を守るという力学関係が生まれた
  3. チンパンジーとヒトでは、大脳新皮質の発達で得られたメンタライジング能力によって自尊心(=pride)が芽生え、オス(男性)は「高い地位につきたい」「集団を支配したい」という強い欲望に駆られるようになる。この欲望がヒトのパトリオティズムの源である
  4. その一方、太古の自然環境下では経験豊富な年長者や実力者の発言に素直に従った方が生存に有利(適応的)だったので、上位者に対する従順さも進化した
  5. ヒトのメンタライジング能力の志向性の高次化によって、霊的な存在を信仰する心の動きが集団内で共有され、アニミズムなどの初期の宗教が始まった
  6. およそ一万年前に始まった農耕や牧畜はそれ以前の狩猟採集生活に比べて重労働なので、体格と体力に優る男性が生産に必要な資源を独占所有するようになって、男性優位の傾向がいっそう強まり、家父長制が社会に広まっていった
  7. 農耕や牧畜によって食物を蓄えることが可能になるとともに、役割の分担が始まり、分配に格差が生まれ、社会が階層化していった
  8. 家父長制かつ一夫多妻制の社会では、高い地位についた男性ほど多くの配偶者を得て、次世代に多くの遺伝子を残せるようになった。
  9. 高い地位についた男性は、その特権を自分と同じ遺伝子を持つ子供や血縁者に引き継ごうとするので、高い地位は代々世襲されるようになった
  10. 上記3.で芽生えた自尊心は、古い遺伝子に由来する8.や9.の傾向をさらに加速させ、権力の頂点に立った王は他国を積極的に侵略するようになった
  11. 人口の爆発的増加も、他国を侵略しようとする好戦的な性向を後押しした
  12. 被支配者階級となった国民は、上記4.の理由から、王の決定に従順に従い、王のために他国と戦わざるを得なくなった
  13. 戦争が頻発し他国から侵略されるリスクが高まると、防御のための強固な城壁で囲まれた大都市が形成されるようになった
  14. 大都市での生活に伴うストレスに対処するために、宗教の儀式が複雑化し、儀式のための神殿が造営され、教義宗教へと発達した
  15. 都市がさらに巨大化し、戦争も激化すると、それに伴う大きなストレスに対処し、人々の心を一つにするために「高みから道徳を説く神」が生み出され、一神教が成立した
  16. 王たちが国家統一のための梃子として利用したため、一神教は世界中に広まり、その排他的な教義ゆえに現代でも深刻な分断と争いの原因となっている

農耕や牧畜の開始をきっかけにヒトが採用した社会の枠組み、つまり少数の為政者が社会全体を率いる枠組みにおいては、「自分の遺伝子をできるだけたくさん次世代に残したい」という本能に基づいた一個人の欲求のために、社会全体が争いに巻き込まれてしまいます。さらに、メンタライジング能力によって芽生えた自尊心に駆り立てられた為政者は、自らの支配力を強化するために他国への侵略を加速させていったのです。

しかし、「魂」のような霊的・非物質的なものを持ち出さなくてもヒトには確かに自由意志があり、自らの選択によって遺伝子の束縛から逃れることが可能です。今こそ、現代の道徳観・倫理観に沿って、男性中心の社会の枠組みを見直す時期だと思います。

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