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『男の凶暴性はどこからきたか』について(その2)

この記事この記事の続編です。

リチャード・ランガムとデイル・ピータソンの『男の凶暴性はどこからきたか』は、侵略戦争を繰り返す男の凶暴性の背後にあるのは自尊心(=pride)とパトリオティズムだと結論づけています。大脳新皮質の発達によって芽生えたこれらの感情が、それ以前の性選択によって形成された男性優位の傾向をさらに加速させました。

ただ、本書のもう一つの重要な内容は、ボノボの平等で平和な社会の観察結果です。こちらの方はヒトの未来にも希望の光を当ててくれそうな内容です。

ボノボはピグミー・チンパンジーとも呼ばれ、チンパンジーより体が小さい以外は、ほとんど区別がつないないほど両者はよく似ています。ヒトとチンパンジーが共通祖先から分岐した後に、150万年〜300万年前にチンパンジーとボノボが分岐しました(下の系統樹を参照)。

系統樹

リチャード・ランガム、デイル・ピータソン『男の凶暴性はどこからきたか』より

チンパンジーとボノボはごく近縁な種ですが、それぞれの社会には下の表のような大きな違いがあります。違いが生じた根本的な理由は、メスたちの同盟関係にあります。チンパンジー(オラウータンやゴリラも同じ)のメスたちは、オスの暴力に対して効果的な対抗策を進化させることができなかったのに対して、ボノボのメスたちは同盟(相互支援のネットワーク)を作ることによってこれに対抗し、かつては父権制だった社会を、オスとメスが対等で寛容さを持つ社会に変えていったのです。

チンパンジーとボノボの違い

チンパンジー
ボノボ
集団はオスの血縁で形成され、他の集団のオスに対してなわばりを防御する
同左

オスはトップの座を得るために激しく闘い、危険をおかすオスはトップの座を獲得することにそれほど強い関心がない
優位者は権力をふりかざす優位者が権力をふりかざすようなことはほとんどない
オスがすべてのメスを支配しており、自らの優越性を謳歌している両性は対等であり、一位のメスと一位のオスは同等、最下位のメスと最下位のオスも同等
オスはメスの排卵期(交尾の時期)を把握しているオスはメスの排卵期がわからない
オスのメスに対する力ずくの交尾や暴行や子殺しなどの暴力的な行動が見られる左記のような暴力的行動はまったく見られない
母親は息子を支援するが、それほど影響力はない息子が他のオスたちの競争に勝つには母親の支援が非常に重要
メスは他のメスと同盟を組むことはないメスどうしの同盟関係が強く、互いに支援し合う
メスを他のオスの暴力から守ってくれるのは配偶者のオスだけメスあるいはその息子がオスから侵害を受ければ、同盟を結んでいるメスたちが味方になって反撃してくれる
性行為は繁殖の手段性行為は友人を作る手段でもある(支援ネットワークを作るためにメスどうしも性行為をする)
なわばりの境界域で2つの集団が出会うと争いになるなわばりの境界域で2つの集団が出会っても衝突が起きず、友好的な交流が始まることもある

ヒト・チンパンジー・ボノボは、遺伝子型はほとんど違いがないのに、表現型は大きく違います。このことからも遺伝子決定論が間違いであることがわかりますが、逆に、遺伝子の束縛を逃れて自らの選択で社会を変えていけることも意味しています。その時に、ボノボの平等で平和な社会と対比することによって、人間の社会がどこでどう道を誤ったのかをよく考えることが重要だと思います。

『男の凶暴性はどこからきたか』

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